Exhibition

Voyage

箱守夏子

2022.4.3-24

生きることは激痛の連続だ。痛みは人を挫けさせる。やがて生きることを放棄したくなるだろう。恥ずかしながら、私もそのひとりだった。新宿の地下街で初めて見舞われたパニック発作、心臓が口から飛び出るような速さで脈打ち、アドレナリンが血中に放出される恐怖は名状し難い。それはまるで戦場に放り出されたような感覚に近かった。

だが、幸いなことに、そんな不出来な妻の日常を支えてくれる夫がいた。薬を飲みつづけながら、今私は生きている。生き抜こうともがいている。そしてもう一つありがたいことに、私には作品で表現したいことがあり、制作を続けられる環境がある。それがなんと恵まれたことなのか、その意味を教えてくれたのは、過去の歴史だ。頭上で爆弾が炸裂しない世界、言論が統制されない世界。そんな世界に生きているのであれば、私は作品を作り続けるしかないではないか。

しかし、2022年現在、他人との接触が制限されたこのコロナ禍という世界において、人々の気持ちは疲弊しきっている。コロナによって人生の最期を迎える人たちはみな、愛する人と会うこともできず、誰かと手を握ることも叶わず、どれだけ多くの人がたった1人で亡くなっていったのだろうか。考えるだけで、心は痛み、残された家族のことを思うと、涙が込み上げてくる。だが、私たちはこの未曾有のパンデミックで失われた命からバトンを受け取り、歴史を紡いで行く使命がある。共に手を携え、生き残る術を模索しよう。

この展覧会は、箱守夏子という作家一人のものではなく、プリンター・小島勉、写真家・茂手木秀行、編集者・川本康の誰か一人が欠けても成り立たない展示になっている。明るい芸術の未来を提示することで、何かを感じとり、コロナ禍を共に生き残ろうと少しでも思っていただければ幸いだ。

 

2022年 早春 箱守夏子

 


4/3(日)〜4/24(日) 

12:00-19:00 月曜休み