Exhibition
大橋藍
2023.1.11-25
私にとって実の父親について言葉に出して語ることはとても難しい。
おそらく人より難しい家庭環境だったと思う。事実だけいうと私の父は日常的に家族に対して精神的、身体的に暴力を振るっていた。それが理由の全てではないが、私は父のことや、父と私を含む他の家族との関係をうまく言葉で説明することができない。だから、子供のときは周りの人や友達に父のことを話すことはあまりなかった。私が大学に入りたての頃、そんな父が癌になって死んだ。あんなに大きくて怖かった父が最期、痩せ細って身長も少しずつ縮んでいく様は悲しいものだった。そんなことを今になって考えた。
父の死から時間は経って今は昔ほど父のことを考えることは少なくなった。日々の生活でいっぱいで考える余裕がないのか、私は父親の死を乗り越えることができたのか、どちらなのかはわからないが。たまにふと父のことを考えたときはうすぼんやりとした心の痛みとともに亡くなる直前の父の姿が思い浮かぶのだ。
一つ言えることは親を亡くすということは精神的な意味で自分の腕や脚をなくすようなものだと思う。父が死んだとき、私のなかにあった幼い子どもは死んだ。周囲の誰かに積み上げてもらっていたものでできていた私は一度全部バラバラに崩れ落ちて、そこからまたはじめから自分自身を積み上げていったのだ。もう塞がることのない心の穴はコンクリートのようなもので塞いだ。その部分は硬くなっていてどっしりと重い心の一部になった。
今回の展示では、そんな必死に自力で生きようとする作家の姿が伝わればいいと思う。
2023年1月 大橋藍
開期
2023年1月11日(水)ー25日(水)
開場時間 12:00ー20:00
HP
お問合せ
大橋藍プロフィール:1993年神奈川県生まれ。オブジェクトやパフォーマンスを中心に、暴力や差別の問題について、ことの本質を浮かび上がらせ、鑑賞者の前に突きつけるような作品を制作している。家族内でのDV(ドメスティック・バイオレンス)の問題やその当事者が抱えるエゴイズムといかにして向き合うか、また実体験としての人種や性差別の問題などが主なテーマである。また同時に、個々の主要な関心よりさらに根源的なテーマとして、表現活動に関わる者は決して避けることのできない表現の自由について考察する作品も作っている。主な展覧会に、あいちトリエンナーレ(2019年)、表現の不自由展東京(2022年)などがある。